◆第36回「夫婦の価値観と子育て」

 

北米でマルチリンガルの子育て、仕事、海外生活と日々奮闘中の筆者が感じた日本と海外の違いや気づきを綴るコラム。

第36回は「夫婦の価値観と子育て」の話です。

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 20代から海外を転々とし、芸術、エンターテイメント、カルチャーを好奇心のおもむくままに探索していた時期から一転し、海外滞在はこれで最後!と決めた土地で夫とは偶然に会った。

 

出会った場所はそうでもないが、出会い方はなかなかで、よくもまあ、あの日あのときあの場所にいたものだと、今になっても人生の不思議を感じずにはいられない。

 

趣味も考え方も、当たり前だけれど国籍も違う夫との共通点は、食の好みと家族が大切という思いだけ。それぞれに人生の目標があったので、結婚までもかなりの時間を要したし、決意したときも「うまくいくか分からないけれど、試しに一緒に住んでみようか」という気持ちだった。

 

もちろん、結婚という公的な制度(めんどうな)を取るので、真摯に一緒にいたいという気持ちはあった。でもなんというか夫とはすでに家族のような空気感で、もう家族っぽいけど、でも住んでる国違うしねというトーンだったのだ。

 

そんな私たちの結婚生活もかれこれ10数年、子も加わりドタバタとした日々を送っているが、先日こんなことがあった。

 

ロングウィークエンドだった週末、大好きな従兄弟たちと連日お泊まり会をして、好きなことを好きなだけする3日間を過ごしてきたわが子。

 

従兄弟は5歳前後で年上なので、一緒になってゲームをしたり、好きなだけお菓子を食べたりと、普段だったらNGな不摂生な生活をしたせいで、すっかり便秘になってしまった模様。休み明けの学校に行く朝の時間に「◯んちがしたいけど、遅刻しちゃう」とトイレに行くことを迷いあわてていた。

 

夫は時間に几帳面で、遅刻は絶対にしたくないタイプ。私は私で、毎朝「学校に遅刻するよー、遅れると遅刻カードもらっちゃうよ」と急かしていたので、子の思考にはきっと、”遅刻は厳禁” がすりこまれていたのだと思う。

 

子の発言に、私は「我慢したら便秘がもっとひどくなるから、遅刻してもトイレに行かせたい」という思いが浮かんだのだけど、夫はNOと言うのでは?とチラッと気になったのだ。だって、遅刻には厳しい人だから。

 

しかし夫は「遅刻よりもトイレの方が大事、トイレに行きなさい」と子を促した。

 

その言葉を聞いたとき、私はなんだかとてもほっとしたのだ。

 

私はわりと厳しい家庭で育ったので、規律やルールを守ることはすごく大切で、やるべきことをやる、人に迷惑をかけないことが、自分のことよりも優先度が高いと思ってきた節がある。

 

昔ってそんな躾や育て方がわりと主流だったように思う。さらには文武両道!なんていうスポ根時代を送ったものだから、すべてを全力で取り組み、完璧を目指す、という日々を過ごしてきた。それが今も癖のように残っている。

 

それらは、ある側面では私の役に立っている。特に仕事上では。でも完璧主義的な考え方とか、自分よりも誰かや何かを優先する生き方というのは、心がしんどくなるものだし「もうちょっと気を緩めようよ、そろそろ」と、このマインドを持つ自分に少し息苦しさも感じていた。

 

なので、子にはもっとのびのびと自分を優先できる思考を育んであげたいと思っていて(もちろん常識の範囲で)。だから今回のことは、たかがトイレされどトイレだったのだ。

 

自分にとっての自然な欲求や気持ちがあったときに、「それをきちんと優先させることができるのか」「優先していいと思える思考になれるのか」は、私にとっては子育てをする上でとても大切なポイントだったから、夫とそれが一致していたのは本当によかったなと安堵した。

 

これまでの人生で当たり前だと思ってきたことが、大人になることで「なんか違ったかも」と思うことってあると思う。海外に住み、価値観も文化も異なる人たちとたくさん接することで、この”当たり前”についての疑問や発見を多くしてきた。こうして私が感じたり考えたりした、「自身にとってよりヘルシーなマインド」をわが子には伝えていけたらいいなと思っている。

 

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SASAKI 

海外移住をした編集者・ライター。取材・インタビュー記事が得意。英仏話者。人々の生き方や働き方、子育て、教育に興味あり。現地企業では新たな挑戦としてマーケティング・カウンセラーも経験し、いつか海外と日本の架け橋となるようなサポートもしてみたいと考えている。